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自衛隊と異世界の軍勢との戦いから、所変わってアメリカ合衆国のホワイトハウス。「ディレル大統領」が、部下の「クリアロン補佐官」から日本に突如として現れたゲートに関する報告書を受け取っていた。
報告書によれば、【日本軍は折角『門』の向こう側へ立ち入ったのに『門』の周囲を壁で囲んで、亀の子みたいに首を引っ込めて立て籠もっている】とのことだ。補佐官の推測は、ゲートの向こう側の様子を慎重に調べているからではという物だった。
【今泉は、空前の支持率を受けて政権が安定している】のに対し【ディレルは支持率が急落している。早急に具体的な成果をあげて国民に示さなければならない】らしく、そのため、ディレル大統領はあることを考えていた。
【手つかずの資源。圧倒的な技術格差から生ずる経済的な優位。汚染されていない自然。これら全てに資本主義経済は価値を見いだす。
資源は存在する。これは間違いがない。東京に攻め込んできた兵士の武装の材質から、ほぼ地球と同じ鉱物資源があるであろうことがわかっている。こちら側ではレアメタル・レアアースとされる稀少資源が、『特地』には豊富に存在する可能性も指摘されていた。
そして技術格差は、武器の種類や構造から類推することが出来る。見事な、工芸品と見まがうばかりの細工が施されていたが、所詮は手工業の域を出ない。これらの武装で身を固めた騎士達が攻め込んで来るという戦術から、その社会構造と生産力まで予想できるのだ。
さらに、こちら側には存在しないファンタジーな怪異、動物、亜人達。これらの生き物が持つ『ゲノム』は、生命科学産業の研究者達にとって宝の山と言えるだろう。
極めつけは『門』である。この超自然現象を含めた様々な神秘現象に、全世界の科学者達が注目していた。】
ゲートの向こう側に広がる異世界にある資源やテクノロジーを手に入れ、支持率を回復させようという算段だ。そのためにも、日本とアメリカは友好関係にあるので、それを利用していこうと画策していた。
しかし、【日本が『特別地域』に自衛隊を進めることについては、多くの国が大義名分があると認めている。だが一部…中国や韓国、北朝鮮は、かつての軍国主義の復活であり、侵略であると非難している。この3カ国は日本が何をやっても非難する国だから国際社会は全く相手にしていないのだが、日本が『門』から得られる利益を独占するような素振りを見せれば、この主張に同調する国が出てくる可能性もある。そうなった時に、共犯呼ばわりされる事態は避けたい。】ので、慎重に行こうという考えだ。
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一方の異世界、ウラ・ビアンカ(帝国首都)にて。宮廷では普段であれば、貴族たちが毎日のように宴会を行っていたのだが。最近は敗戦続きのために経済的に苦しくなり、また死者多数で喪に服する人も多くなり寂しい状況が続いていた。
モルト皇帝と、内務相の「マルクス伯爵」が会議をしていた。ここで戦場となっている舞台が「アルヌス丘」であると語られた。アルヌス丘から帝国首都までまだ長い距離があるが、侵攻されるのも時間の問題だろう。
皇帝の考えた作戦は【ここに至るまでの全ての街と村落と食糧を焼き、井戸や水源に毒を投げ入れ焦土と化せば、いかな軍と言えども補給が続かず立ち往生する】という物だった。自国の被害も顧みない作戦に反対し、兵力の強化などを地道に進め慎重に戦いを進めようと進言するマルクス伯爵と、それを聞いて作戦を躊躇する皇帝。そんな中、誰かが割りこんだ。
【「陛下!!」
つかつかと皇帝の前に進み出たのは、皇女すなわち皇帝の娘の一人であった。】
皇帝の三女の「ピニャ・コラーダ」だ。容姿は【片膝を付いてこれ以上はないと言うほど見事な儀礼を示した娘は、炎のような朱色の髪と白磁の肌を、白絹の衣装で包んでいる。】、性格は【腰掛けて微笑んでさえいれば、比類のない芸術品とも言われるほどの容姿を持っている。だが、好きに喋らせると気の弱い男ならその場で卒倒しかねないほど辛辣なセリフを吐くので国中にその名を知られていた。】と描写されている。
ピニャは、慎重に事を進めようと考えるマルクス伯爵を罵る。曰く、敵軍は歴史にない規模での攻撃を帝国に浴びせており、聖地であるアルヌス丘も占拠されて長くなる、これ以上時間をかけることはできないというものだ。
皇帝は発言に熱が入るピニャを制止する。【皇帝の察するところピニャには騒動屋の傾向があった。責任を負うことのない野党的立場の者がよくすることと同じで、批判ばかりで建設的な意見はなにも言わない。言っても実現不可能な夢物語みたいなことばかり。現在と将来に対し責任感を有する者なら、できないようなことばかりを求めてくる。何かあれば、さあ困った、どうするどうすると、責め立て、実務者に「じゃあ、どうすればいいんだ!」と言わせてしまうまで追い込んでしまうのである。】と考えていた。
皇帝はビニャに対し、彼女の保有する騎士団とともに、敵部隊の偵察に行ってこいと命令した。強い言葉を放つのであれば、行動で示してみろということである。ピニャもそれに納得し、行動を開始した。
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一方、伊丹たちの部隊。伊丹は、北海道の名寄出身の「倉田三等陸曹」が運転する車に乗り、異世界の地を眺めていた。
【先頭を73式小型トラック、その後ろに高機動車(HMV)、さらには軽装甲機動車(LAV)が続く。まぁ、名前を言われてもよくわからないとおっしゃる皆様には、前二台はジープみたいな乗り物、後ろの一台は装甲車みたいな乗り物が走っているとイメージしてくれればよいのである。】
車には伊丹と倉田以外にも乗っていた。「桑原曹長」という彼は【二等陸士からの叩き上げで今年で50才。教育隊での助教経験も長いベテランだ。新隊員達からは『おやっさん』と呼ばれて恐れられていた。倉田も新隊員時代、武山駐屯地で桑原曹長の指導を受けて前期教育を終えたそうだ。】
この世界には当然人工衛星は無くGPSは使えないが、地磁気はあるようでコンパスや地図を頼りに進軍している。
途中で集落を3つほど発見した。ここに来た目的は和平交渉であるので対話をすることに。言語については銀座に攻め込んできた化け物たちの一部を捕虜にして学習しており、また集落の人々は戦争については領主が勝手にやってることだから自分には無関係と考える人ばかりであったので話し合いはうまくいった。
【「棒読みっすねぇ。駅前留学に通ったほうがよかぁありません?」
「五月蠅せぇ。第一、ピンクの兎の会社は、とうの昔に潰れたよ」】
森の手前までやってきた。そこで偵察隊たちが発見したのは、火を吐く巨大なドラゴンだ。
【「首一本のキングギドラか?」
桑原のセリフに倉田が「おやっさん、古いなぁ。ありゃ、エンシェントドラゴンっすよ」と突っ込む。だが、桑原はドラゴンと言われるとブルースリーを連想してしまうようで、妙に話が合わない。】
ここで登場したのは「栗林二等陸曹」という女性隊員だ。小柄だが、格闘記章を持つほどの達人であるという。【住民と交流する時、女性がいたほうが良い場面があるかも知れないと言う配慮から配属されていた。例えばイスラムのような戒律のある土地だった場合、女性と交渉するのは女性であったほうがよい。】ということで部隊にいた。
自衛隊でもドラゴン相手ではどうにもならないということで遠くから様子を見るしかなかった。ドラゴンの巻き起こした森林火災が夜中の雨で鎮火したため、翌朝に森に入ることに。
黒こげになった森を進むと、集落の跡地のようなものを発見。100人ほどはいたであろう集落が火災により全滅していた。
戦闘の際に小型のドラゴンとなら交戦したことがあるらしく【そいつの鱗でも7.62㎜弾は貫通しなかったそうですよ。腹部の柔らかい部分ですら12.7㎜の鉄甲弾でようやくということでした】と語られた。
ここで水筒の水がなくなりかけているということで、伊丹は井戸の跡に水がないか調べることに。木桶を入れると、何かにぶつかる音がした。井戸を覗いてみると
【井戸の底で、長い金髪の少女が、おでこに大きなコブをつくってプカプカと水に浮かんでいるのが見えたのであった。】